南部美人のこだわり「酵母・酒母」編

世界中を見渡してみると、酒を造らない民族は、エスキモーとニューギニアのごく一部の民族だけと言われています。このように人間にとってアルコール、すなわち酒は昔から深い関わりを持っている大切な飲み物です。

さて、酒の誕生はいつ頃からだったのでしょう。酒の誕生は恐らくこの地球上に酵母という微生物が生まれ、ブドウや草花が生まれたときだと思われます。それからどのくらいたって人が酒を飲むようになったかははっきりしませんが、酒壺や古代の壁画から数千年前だと言われてます。このように世界中の酒のアルコールをつくる主役は酵母です。酵母は糖分を発酵してアルコールにする力を持つ微生物で、もちろん清酒を造る主役でもありますが、アルコールだけではなくて、あのすばらしい吟醸香や、味の成分となる酸などの清酒らしい香味をつくり出す菌です。

もろみが発酵して酒になることは数千年前から知られていたのですが、このような現象は自然に「わいてくる」と考えられていました。微生物の存在自体が知られたのは、オランダのレーベンクックが1680年に、自作のレンズを重ねて造った顕微鏡を使って観察したのがはじめてとされています。その後19世紀になって、ようやく酵母細胞が精密に観察され、酵母によって糖がアルコールと炭酸ガスに分解されること、つまり発酵の仕組みが初めて分かりました。

現在の清酒酵母は、明治37年に設立された醸造試験所が、全国の銘醸蔵からたくさん酵母を分離して、優良な酵母を選択、培養して選ばれた「協会酵母」が主流を占めています。このほかにも各県で独自に改良した酵母や、自分の蔵に住み着いている自家製酵母などいろいろな種類が使われています。

岩手県でも、平成のはじめに吟醸用の酵母として「岩手2号酵母」が分離され、長らく使われてきましたが、平成22年から新しい岩手のオリジナル酵母「ゆうこの想い」と「ジョバンニの調べ」の2種類の酵母が発表され、使われ始めました。「ゆうこの想い」は穏やかな香りと、優しい味わいになりやすく、「ジョバンニの調べ」は薫り高く、華やかな味わいになります。詳しくは岩手県酒造組合のホームページに記載されております。

両手でじっくりとかき混ぜる「手もと」という手法でタンクの水麹を混ぜあわせます

さてこの酵母を大切に育てるために、日本酒造りでは「酒母」をもろみの約10分の1の大きさで仕込み、純粋にしかも健全に酵母を大量に育てます。酒母は人間で言うとお母さんのおなかの中と言うことになり、酵母は赤ちゃんです。酒母は大きく分けると、生(き)もと系酒母と速醸系酒母の二つの種類になります。

その中でも、山廃酒母とは江戸時代に考案された生(き)もとの改良型で、生もとの山卸と言う櫂入れの作業を廃止した酒母ということです。この酒母は自然の乳酸発酵を利用して酵母の純粋培養を行いますので、いろいろな微生物が速醸酒母に比べて含まれるので、重厚な酸味が酒にあるのが特徴です。そして酒母を造る期間が一ヶ月と長くなります。

また速醸酒母はあらかじめ生成された乳酸を最初に使用し、酵母以外の微生物が働く必要をなくし、より純粋にかつ安全に酵母を育てる酒母です。風味は山廃酒母のように酵母以外の菌類の増殖がないので、さらりとしており、香りも良好で、酒母を造る期間も二週間と短いです。

現在ではほとんどの蔵がこの速醸酒母で酵母を育てていますが、一部の蔵では山廃酒母や生もとを使用しているところもあります。南部美人では全て速醸酒母で仕込みを行っています。

ここでは、速醸酒母の造り方簡単に説明します。まずタンクに水と麹と酵母と乳酸を入れ、水麹というものをつくります。ここに40度くらいに冷ました蒸米を入れて20度の仕込み温度にします。ここで櫂でかき混ぜてしまうと米をつぶしてしまうので、米をつぶさないように、しかも麹と蒸米がよく混ざり合うように、南部美人では両手でじっくりとかき混ぜる「手もと」というやり方をします。

さて、仕込んでから3日目くらいから暖気入れをして品温を少しずつ上昇させながら、糖化と酵母の増殖をうながします。

タンクで酒母をじっくりと育てています細かい温度管理を行ない、品質を損なわないよう注意します

そして約8日から10日後になるとボーメが8、酸が6から7ml、アルコールが8から10度になり、これ以上発酵させてしまうと逆に酵母が弱ってしまいますので、品温を下げて枯らします。そして仕込んでから約二週間で酒母が出来上がります。

衛生管理には厳しい目を向け、酒造りに取り組みます

こうして出来上がった酒母を、もう一回り大きなタンクに移動してその後の初添になります。たった二週間ですが酒母の造りで雑菌汚染してしまうと、この後のもろみが腐造してしまう可能性もあり、大変重要なところとなります。清潔第一で大切に育てていきたいと思います。